大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1435号 決定

抗告人

凸版印刷株式会社

右代表者・代表取締役

澤村嘉一

右代理人

播磨源二

大久保誠太郎

主文

本件抗告を却下する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

当裁判所も、抗告人の本件債権差押・転付命令の申立を却下すべきものと判断するが、その理由は、原決定の理由説示二12のとおりであるから、これを引用する。これと見解を異にする抗告理由は、採用できず、原決定は、相当である。

よつて、本件抗告を失当として却下することにし、主文のとおり決定する。

(沖野威 枇杷田泰助 佐藤邦夫)

【抗告の趣旨】

原決定を取り消し、本件を東京地方裁判所に差し戻す。

との決定を求める。

【抗告の理由】

一、原決定は、破産宣告がなされると破産者の有する一切の財産は破産財団に属することとなり、破産宣告後に破産財団との関係で権利を取得し、または対抗要件を具備してもそれを破産財団ないし破産管財人に対抗することはできない」とし、民法三〇四条一項但書における差押の趣旨を「差押により物上代位の対象となる債権を特定するのみではなく、物上代位権の存在を公示して取引の安全を図つたものと解せられる」として、抗告人が破産宣告前に差押をした事実は認められないから、抗告人は先取特権に基づく物上代位権を破産管財人に対抗し得ないとする。

二、しかし、民法三〇四条一項但書にいわゆる「差押」は物上代位により効力を及ぼす請求権が支払によつて消滅することなく特定的存在を持続させるために必要なのであつて、公示のためではない。

なぜならば、差押という公示方法は第三者に対し十分なものではなく、また第三者は代位権を行使すべき物上代位権の存在を当然予想し得るからである。したがつて、差押をもつて公示方法とする実質的な意義はないものである。

三、よつて、原決定は失当であり、取消されるべきである。

〈参考・原決定抄〉

(東京地裁昭五五年(ナ)第一二八号、(ヲ)第八二八八号、先取特権の物上代位による債権差押・転付命令申立事件、昭55.11.28決定

〔理由〕

一 本件申立の要旨は、「申立人は、破産者富士紙器株式会社(以下「債務者会社」という)に対し、別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の債権を有するが、債務者会社がその支払いをしないので、同目録記戴の動産売買の先取特権の物上代位に基づき、債務者会社が申立外森永デザート株式会社に対して有する別紙差押債権目録記載にかかる債権の差押並びに転付する旨の裁判を求める。」というにある。

二 よつて検討するに、

1 本件申立は動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使としてなされているものであるところ、同権利の行使については民法三〇四条一項但書において、先取特権者が金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をなすことを要するものと規定しており、同規定の趣旨が、差押により物上代位の対象となる債権を特定するのみでなく、物上代位権の存在を公示して取引の安全を図つたものと解せられるところからすれば、先取特権者が物上代位権を行使するためには、自ら差押をして物上代位権の存在を公示するのでなければ、第三者に優先権を対抗できないと言うべきである。

そして、破産宣告がなされると、破産者の有する一切の財産は破産財団に属することとなり、破産宣告後に破産財団との関係で権利を取得し又は対抗要件を具備しても、それを破産財団ないし破産管財人に対抗することはできないのであるから、先取特権者としては、債務者の破産宣告前に物上代位権の行使の対象となる債権を差押しているのでなければ、破産管財人に対して先取特権の物上代位による別除権の行使を主張することができないものと解するのが相当である。

2 ところで、これを本件についてみるに、一件記録によると、本件申立の相手方とされている債務者会社については、昭和五五年一〇月一一日に破産宣告がなされていることが明らかであるところ、申立人が別紙差押債権目録記載の債権につき、右破産宣告前に差押をした事実は認められない。

してみると、申立人は、本件申立の基礎となる先取特権に基づく物上代位権を破産管財人に対抗しえず、したがつて、物上代位権の行使として、破産管財人を相手方(債務者)とした、別紙差押債権日録記載の債権の差押・転付命令の申立を求めることはできないものと言わねばならない。

三 以上のとおりであつて、申立人の本件債権差押・転付命令の申立は不適法であるからこれを却下することとし、申立費用については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例